株式会社ラムサは7月1日に設立9年目に入りました。
前期でもっとも大きな出来事は、弊社で関わったTHEATER MILANO-Zaが完成し開館したことです。
想えば東急電鉄様が弊社に来訪されたのは4年前の2019年3月末でした。
設計の終わっている劇場を根本的に見直してほしいとのご依頼でした。私は実現できるか恐れながらも問題点を洗い出し、私が理想とする劇場の姿に照らし、進行中のプロジェクトに適用できる範囲で改善できる案を提案いたしました。
ここから今のMILANO-Zaの形が始まりました。大きな設計変更を受け入れていただいた建設関係者のご英断とご苦労にはひとえに感謝しております。私は完成して見え方が良くない席があった場合は、弊社で費用を弁償し責任を取ると宣言しておりました。
私は30年以上の研究で様々な試行錯誤を繰り返し、劇場をふくむ観覧施設はどのようにあるべきかを追求してきました。特にラムサ創設以降の最初の4年間で思考と目標が明確になりました。それの多くが MILANO-Za に結実しております。皆様におかれましては他の劇場との違いをぜひ体験していただきたいと存じます。(チケットの入手は当面困難かもしれませんが...)
劇場とは建築設計の中でもとりわけ難しい種類のものです。
劇場の機能の中で重要な一つは、観客に舞台をよく見せるということですが、これが建築設計者にとっては一番難しいのです。近年でも舞台が見えない、見づらい劇場等がよく見られ、しばしば問題化しますが、設計者も劇場コンサルも手を抜いている訳ではなく、最善を尽くしていることが多いと推測されます。課題のほうが彼らの技量を超えてしまったので結果的には目標が達成できなかったと考えるしかないようです。しかし本来それでよいはずはありません。
弊社で開発した手法は、決して平易ではありませんが、多様性の時代にふさわしい「誰もがよくみえ 包まれ 近く感じる」劇場・競技場の建設を確実に実現できるものとして、体系的に設計支援を確立しています。
最近では、一連の手法は古典的なサイトライン設計とは別次元になっており、「視覚設計」として私は位置づけ、劇場設計には不可欠な新たな視点を含むと考えています。総合的に考えることにより、舞台客席の一体性が高まり、舞台と客席の距離の凝縮が実現できます。ひいては舞台表現の可能性も増していきます。
まず10年続けようと目標を立てて始めた事業ですが達成の道筋は見えているので、次なる目標も考えています。
MILANO-Za や 私が前職で関わった シアター・オーブ は車に例えれば競技用マシンに相当するものであり、全ての劇場にその性能を求める必要はありません。すでに完成してしまったホールは壊すしかないので仕方がありません。これからできていく一般の車に相当する公共ホール等において、設計事務所が、確実かつ容易に観客席設計を進められる支援方法をパッケージ的に提供することができないかと考えています。
観客席等の一体性、親密性を数値評価する方法はすでに理論化しましたが、3次元設計データにより、設計時リアルタイムに数値評価する方法の確立を検討しています。
ある席がちゃんと舞台の見える席なのかどうかも明らかにせず、観客が座席を選択することもできず機械的にまたは抽選で同一価格のチケットを割り振ってしまう悪しき業界のあり方をかえることが必要です。そのためには欧米の劇場のように、視環境が良い席と悪い席を正しい基準に従ってランク付けし、価格に差をつけることが前提になります。私の眼の黒いうちに実現できるとよいとは思いますが。
代表取締役 西 豐彦