劇場の客席椅子に座った観客から、舞台がどのように見えるかを正確に予測することは容易ではありません。観察者となる観客自身の体形差、その前に座る観客の体形差など様々な不確定要素があるからです。予測結果は不確定性があるので、確率でしか記述できません。その中でも、弊社(ラムサ)では、思い込みに基づく間違いや誤解をできるだけ科学的な手法で排除する姿勢でおります。

 実は、詳しい測定結果から、一般的な客席椅子に座った時の視点高さは、設計者が従来想定したり、椅子メーカーが想定している高さから、男性の平均でも実際は数センチ低いことが分かりました。統計的に女性の平均はさらに5,6センチ低く、成人女性の95パーセントが包含される場合は約10センチ低くなります。この数字を正確に把握しなければ、実際の見え方は正確に予測できません。

 さらに考慮すべきは客席椅子の座面は弾力性があり、その弾性率には大小があることです。これによって上半身が沈むので着座した観客の視点高さは下がるのです。

 体格の大きい人は座高が高いから視点も高いが、その場合は概して体重も重いため座面の接地圧は大きく、沈み込みも大きいと考えられます(太っているか痩せているかの差はありますが、臀部の大小を考えると座面の接地圧はほぼ座高に比例すると考えてよいでしょう)。逆に女性や子どもは体格が小さく、座高が低いのですが、体重は少ないので接地圧が小さく、沈み込みは小さくなります。

 そこで椅子の弾力性による沈み込みの大小により、視点高さ(眼高という)の差が若干相殺できるのではないかと考えました。

 図はその実験結果で積載荷重が0、20、40、60kgの違いによる椅子座面の変形を示しています。重さに座面の沈み込み量はほぼ比例します。この実験により、この椅子の場合は、体格差による眼高差は、座面の沈み込み量で若干低減することができるという結論にいたりました。この事例では、それを見え方の予想に反映することを提案しました。

 このような考えは、一般化すれば、客席椅子の設計や、劇場設計に反映できるかもしれないと考えています。

 遠い将来には、オペラハウスなどでは、椅子一脚一脚が、着座した人の体格に応じて、自動的に座面の高さを調整する時代がやってくるかもしれません。すでにベンツなどの高級車にはその技術が実用化されていますので、あとはコストの問題でしょう。夢のような話ですが 代表取締役 西